パン屋が好きだという話

 

私の趣味のひとつにパン屋巡りというのがある。というか、私の生活にはパン屋が組み込まれている。

パン屋を見つけたら入るし、新しい場所に行くときは近くのパン屋を調べるし、調べずに行ってパン屋を探し当てるまで歩き続けるというストイックなのかアホなのかわからない遊びもした。多分アホ。

 

きっかけは、高3の冬にはじめたパン屋のアルバイト。はじめてのバイトだったので、とりあえず他店も見に行って接客の勉強してみようという。その頃は真面目だった。笑

しばらくパン屋とパンの記録もつけていた。

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「パン」って雑に書いてあるのが1代目、2代目はオサレ感のあるもの。チラシも挟みまくっている。パン屋のレシートを貼って、買ったパンの感想とか店の印象とかを書いていた。
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パン屋のバイトはとても楽しかった。基本的には接客。個人のお店なのでマニュアルもなく、自分なりに工夫して仕事できるのもやりやすかったし、店長もそれを尊重してくれたのがありがたかった。イベントがあったり出張で販売したりしたのもいい経験になった。

仕事でいちばん楽しかったのは、お客さんが楽しそうにパンをえらんでる姿を見るとき。

常連さんが来てくれると安心するし、パン好きな人は何となくわかるし、選ぶパンに性格出るし(独断と偏見による)、お客さんと話をするのも楽しかった。

5年くらいいたから、常連さんで、お母さんに抱っこされて来ていた男の子が、立って自分でパンを選んで、店長に「ありがとう!」と言えるようになってる姿を見たときは、涙ものだった。そして、お客さんが帰った後の店長の笑顔も素敵だった。

 

 

思えば、パンは私の味方だった。

何かとストレスに弱い子どもだったので、すぐ食べられなくなったり、特定のものしか食べられなかったりした。

でも、比較的、パンなら食べられるということがあって、高いカロリーなので少ししか食べられなくともなんとか生き延びられる!という時期もあった。

そんな自分の性質と少食であることがネックで、外食も苦手だった。食べきらなければならないという強迫観念にも襲われ、外食は苦痛でしかなかった。 

でも、パン屋のイートインは大丈夫だった。自分の食べたいものを食べたいだけ食べられる。多かったら持って帰ることもできる。その気軽さと、セルフサービスのほったらかし感が、私には居心地がよかった。

ここ数年で、ネットで会食(外食)恐怖症というワードがヒットするようになったが、その言葉を知る前にパン屋のおかげで克服に近付いたといっても過言ではない。 

 

パンとパン屋に生かされた私、というと大げさだが、パン好きと一言でいうには自分の中では多少の違和感があった。パン屋には200軒近く行ったし、パン祭りのスタッフをやったり、パンシェルジュ検定も受けたりした。だけど、パン自体が好きなわけではないかもしれないなあと。

いや、それはパン好きでええやろ、と人に言われればそうなのかもしれないけど、体感がちょっと違う。

パンガチ勢の人はよく、こんな粉を使っていて、とか、天然酵母があーでこーで、とかすごく詳しいし作っている人も多いと思う。でも、自分はそこまで作りたいとは思わなくて(プロに任せたいという理由もあるけど)、違いはなんとなくわかるけど研究するほどには興味がない。

めんどくさがりと言われればそうだし、そこまで好きじゃないんでしょといわれたら、その通りなんだと思う。

 

でも、好きだ。パン屋に行きたい。パンを買いたい。

 

でも、何に一番惹かれるのかと言われると、パンの周りにいる人たちだと思う。

 

パン屋のある景色とか、

パン屋に通っている人の人生だとか、

パンを作っている人の思いだとか、

パンの周りにいるその人たちに興味がある。

 

パン祭りのスタッフをした時にふと思ったのが、美味しいパン食べられて嬉しかったけど、1番の感想は「店に行きたい」だった。 祭りは祭りとして楽しめるけど、パン屋としては文脈から切り離された感じがなんだか自分には勿体無いと思ってしまったのだ。

 

はっきり言って、そんなに美味しくないパン屋にもたくさん行った。美味しくないといえばとても失礼だけど、冷凍の生地なんだろうなとか、甘すぎるとか、パサパサすぎるとか。好みもあるけど。

でも、そんな店が何年も続いていたりする。誰かの思い出の味だったり、誰かを救ったパンだったりする。そして、そういう店に限って、お店のおばちゃんがすごく愛想がよかったりするんだ。いくら美味しくても店員がツンとしている店より、私はそんな愛嬌のあるパン屋が好き。

 

パンは美味しい。でも、何を美味しいとするのか。パンの何が美味しいのかと言われれば、パンのもつ物語なんじゃないかと思う。

 

 

甲斐みのりさんの著書に『地元パン手帖』という本がある。地方に愛されるご当地パンをパッケージとともに紹介してくれる非常にわくわくする本。

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2016年発売、当時甲斐さんのトークショーに行ったときにとても共感した言葉がある。

「おいしいものを食べるのも好きだけど、おいしくものを食べるのが好き」と。

おいしくものを食べる、というのは、楽しく食べるということ。味だけでなく、パンの物語も味わうということだと解釈した。

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美味しいけど、何が美味しいんだろう。好きだけど、何が好きなんだろう。私はなんとなくそんなことを考えながら過ごしている。説明できるものもあるけど、できないものもある。

好きなものは好き!!!ほんとはこれでいいんだと思う。